2019年9月の公演の感想。今でも忘れられないので!
阿佐ヶ谷スパイダースのプロデュース公演から2017年に劇団化されてからの2作目。一言では言い表せないぐらい素晴らしかった。昔の阿佐ヶ谷スパイダースの世界に戻った感じ、あの不穏な空気、混沌、熱量…。
中村勘三郎さんから依頼され、諸々の事情によりお蔵入りになっていた作品を舞台化。歌舞伎の演目が元になっているので、歌舞伎に少し苦手意識がある身としては難しいかな、と構えて行ったけど全く問題なく楽しめた!
舞台の奥は漆黒の闇、雨、行く手には光はなく油断をすればドブ川に引きずりこまれる。登場人物全てが自分の欲望のままに行動する、ののしり合う、ぶつかり合う。その先にはさらなる絶望。救いがないようでいて最後の瞬間には花火が映し出され、闇の中の瞬く光に見えるは浄化か希望の光か…。
吉田(藤間爽子)の自ら堕ちていく狂気、清源(中村まこと)の滑稽なまでの白菊に対する思い、権助(伊達暁)の貪欲な生への執着、役者全てが生き切った。私は公演最初の方と千秋楽を観たのだけれど、役者の皆さんの演技が深まっていて凄みが増していた。クラリネット(李千鶴)、ピアニカ(木村美月)、ウクレレ(ちすん)、太鼓(森一生)、劇団員の決して流暢ではない楽隊の調べが、かえって物語の気味の悪さを増し、繰り返されるフレーズが劇場を出ても頭から離れない。吉祥寺シアターの、奈落、2、3階通路、舞台奥の扉など劇場全体を使用した演出がからくり小屋のようで異空間だった。
終演後のバックステージツアー(先着順、無料)では舞台監督からのセットに関する説明。舞台の床面は劇団員皆で作成した歌舞伎の「東文章」の一節が描かれ砂とともに焦土を表現している。桜は焼け跡の桜に1輪桜が芽吹いて咲いている。ラストの花火の演出は最初は無かったのに稽古の最後で長塚圭史さんが「このままでは終われない!」と言い出して大変だった、等色々裏話も聞けて楽しかった。演出の長塚圭史さんも登場し、最後の花火の意味について説明があった。
「あくまで演劇の感じ方は人それぞれで自由です。正解はありません。」と前置きした上で。年に一度開催される長岡の花火大会で毎年最初に同じ時間に戦没者の鎮魂のために最初に打ち上げられる「白菊」という花火をイメージしたとのこと。「世界中の火薬を花火に」とう主旨の花火で、祈りの花火だとのこと。花火の彩色は役者が皆で描いたとのこと。
とても感動した。祈りの花火だったのだ。しかも「白菊」という名前も偶然の一致で、まるで今回の「桜姫」が何かに導かれたかのように感じてしまう。きっとあの世から四代目鶴屋南北も中村勘三郎も見にきていたに違いない、そんな風に感じた。だってもし自分が鶴屋南北、中村勘三郎だったら気になって劇場に来るだろうなと思うから。
今世界中で国々の争いや人々の分断が叫ばれている。でもそんな中でも必死に抗っている人は沢山いる。演劇を含め文学、音楽、芸術等、優れたエンターテイメントは決して分断や溝を生むようなことはしない。どんなに人間に対する不信や絶望を表現しようとも、それを見た人の感情をゆさぶり、世界のそして人間の残酷さ、美しさ、清濁併せ吞む多様さを思い起こせてくれる。今回の阿佐ヶ谷スパイダースのような舞台を観ると、大げさかもしれないけど「まだ日本もすてたもんじゃないな」と思えるし、表現方法は違うけれどもこんな自分でもより良い世界のために何かできるのではと考えさせられた。
公演の前に物販には中山祐一朗さんをはじめとした劇団員、オリジナルチケット交換には伊達暁さん、座席の案内に長塚さんがいて昔からのファンとしてはそれを見るだけでもドキドキしてしまう。ちょっとでも話せるチャンスなのに緊張でとても話しかけられない!桜姫を演じた主役の藤間爽子さんも開演ぎりぎりまで座席の案内をしていた。併設のカフェではコラボメニューもあったり写真の展示もあった。公演終了後も劇団員の皆様がお見送りしてくれ、劇場に入る瞬間から出るその時まで演劇を味わい尽くした。昔のプロデュース公演もその時々で色が違ってとても面白かったけど、劇団化してあえてアナログな方向に進化(原点回帰か?)することでより魅力的になった。これからは不定期ではなく年に一度は公演をするそうなので、もう来年の公演が今から楽しみだ。昨年の「MAKOTO」は今年DVD化(ネット配信も)されているので、「桜姫」もきっとDVD化することでしょう。見逃した方は是非観ることをおすすめします!いつか絶対再演をしてほしい!!
何かのインタビューで長塚さんが自分のことを「芝居バカ」と言っていたけど、スタッフを含めた劇団員全員が演劇が大好きで、見ているこちら(客)に「楽しんでほしい!」という熱が伝わって感動した。とにかくまっすぐ、変に気取ったところなく直球。役者以外のスタッフも含め劇団員の半数以上は演劇界でキャリアを重ねた人たちなので、熱はあるけど繊細で絶妙なバランスを感じられてとても心地よかった。阿佐ヶ谷スパイダースは好き嫌いがはっきり別れる劇団だと思う。苦手な人も多いけど、好きな人はどっぷり好きになる、私は後者。長塚圭史さんは今後KAAT(神奈川芸術劇場)の芸術参与に就任されるのでそちらでの活動も楽しみ。
『桜姫 〜燃焦旋律隊殺於焼跡〜』
原作:四代目鶴屋南北
作・演出:長塚圭史
出演:中村まこと、伊達暁、藤間爽子、中山祐一朗、村岡希美、大久保祥太郎、坂本慶介、富岡晃一郎、志甫まゆ子、ちすん、李千鶴、森一生、木村美月
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